分かり易いものなんてなくていい。あるいは、特別なものなんてなくていい。すべては難しいもので構成されていればいいし、ありふれていていい。こんなこと、わざわざ私が口にしなくたって分かってくれるでしょう?
 あなたは結論主義者だけれど、私は虚無主義者だから。
 だって人はいつか死ぬの。私は死んだことがないから分からないけれど、きっと死んだらなにかを考えることもできないはず。なにを感じることもできないはず。
 いつか終わるものに愛着を持つのも一興。でも、この世界に生きるうえでの大前提が“いつか終わること”ならば、すべてに執着する必要はなくなる。どうせ人はいつか死ぬのに、例えばあのときあいつに何を言われたなんて、そんなこと気にするだけ馬鹿馬鹿しいじゃない。
 だから、遺伝子工学だとか医学だとか薬学だとか、そんなものに人間の死をどんどん先延ばしにされると困る。歴史だってなんだって、人間の脳が人口の数だけ存在し個々の発想が刹那的に通り過ぎていくことで作られるものなのだから。一人の思考が刹那でなく恒久であったら、この世はもっとつまらないものになるでしょう。
 結論主義者のあなたには、よく「死の概念を神格化している」と言われるけれど、私に難しいことを言われても困るだけ。私に言わせれば、「一つの穴に落ち込めばそれは永久に底なく続いていて、だから一つの綻びもあっちゃいけない」なんて、「そのうち満たされるなんて楽観をしてはいけない、どこかで満たされてしまったらもうヒトじゃない」なんて、「いつまでも形さえ分からない何かを追いかけるのがヒトだから」なんて、そんな考えは人生を進むことに注ぐ力が大きすぎて眩暈さえ感じそう。ぜんぶ諦めれば、こんなに楽なのに。
 あなたは結論主義者?
 あるいは虚無主義者?






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