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ずうっとこのまま眠っていたい。 そう思うのは我侭? 目を開ければ、起きあがれば、今より輝かしい今日があるの? そんなの、きっと。 私には眩しすぎて吐き気すら催してしまう。 だから目蓋をぎゅうと閉じることで、ただただ前へと流れる時間に反抗する。 お願いだから流れないで。流さないで。 時間が止まれば何も失くさない。何も変わらないもの。 * * * 私はあなたのいない時間を克服した。ちゃんと、ひとりで目覚める朝にも慣れた。だけど、どうしても感じてしまうのは、私ひとりだけの肌が空気に触れるこの冷たい雰囲気。急に部屋が狭く思えた。正確に言えば、この部屋が息苦しい檻に思えた。いくらあなたのいない時間に慣れたと言っても、私が生きられるのはあなたのいる場所だという事実に変わりはなかった。それに、気づいた。それに気づいて、どうにかあなたのいない一人きりの自分を認めて生きてきたのに、自分のことを何よりも強い憎しみで追い詰め窒息しそうに感じた。 そんな息苦しさに目覚めたのは日付が変わって5時間もしないとき。眠ってからは3時間も経っていなかった。 どうしても出不精だった私たちがはじめてふたりきりで出かけた海。それは砂浜があり地を焼くような日差しがあり大勢の人間が集う場所ではなくて、排水が流れ込みコンクリートによって直線的な形を作られた工業地帯に程近い冬の海。人のいない場所が好ましかった。あの頃も、そして今も。 無意識に目覚め起きあがり、気づけば始発電車に飛び乗っていた。 窓から外を見る。この世界の澱を溶かしたような朝もやけ。世界を暖めるため、その白い細かな水をどうにか切り裂こうと躍起になる陽光のかけら。その戦いにおいてあまり有利な状況にあるとは言えない光。あなたを忘れようとしてまで無理に生きていこうとした自分が可笑しくなった。 だからこそ私はあなたを忘れたい。可笑しな人生を続けるために。 これほどまで脱力して腑抜けた体でさえ、列車に乗っている限り私は前へ進んでいるのだから。 今朝の夢の中で、私は思わず自分のことを憎みそうになった。あなたを失わせた自分のことを、自分が憎みそうになった。でもそれは例外の中の例外で、今までずっと、私は私を否定することなく生きてこられた。私は、充分にがんばれた、と思う。あなたが今の私を見たとして「がんばれたね」と笑ってくれるだろうか。あなたがそうしてくれたら、私は本当にがんばれたんだ、って、思える。 今、あなたはいない。 どれだけ傍に感じて互いを求めた私たちでさえ所詮は他人同士だった。きっと他人同士をつなぎとめる力は甘い甘い理想。儚く儚い希望。どこまでも望み、望み続ければきっと他人同士でも繋がることができる。そのために、理想と希望のために記憶の奥底に封じ込めた傷が露見してしまっても、理想と希望が生み出した愛しさが傷に絡み包み癒してくれる。どちらかが死ぬまで。思いが死ぬまで。ずっと癒し続けてくれる。 その日、私が一人で見たはずの海は美しすぎた。あなたのいないはずのこの世界に存在する海が、美しすぎて恐ろしくなった。 * * * 私はまだベッドの中にいる。私の眠りはどこまでも私に優しく、ただ眠っている間は何一つ望まなくても生きていける。こうしている私には余裕がある。余裕がある。あなたよりも。私には余裕があるから、今なら自分以外の誰かを包むことも容易い。それはいつ訪れるか分からないけど、いつかかならずあなたにも悲しい喪失が訪れるから。そんな日には、私自身の余裕を犠牲にしてでもあなたを包むよ。約束する。 あなたを喪うなんて最大級の喪失に伴った最大級の悲しみに耐えた私なら、あなたの悲しみも癒してあげられる。別に愛しさを求めるわけじゃないし、理想と希望をもつこともしないけど、それでも私はあなたを癒すだろう。他でもない私がそうしたいから、あなたを包み癒すだろう。 そうしたらきっと、ちっとも綺麗なんかじゃない2人で見たあの淋しげな海のような、あの頃の記憶をふたりで思い出せる。もし記憶喪失になったとしても忘れられないあの頃の時間を、私とあなたのふたりで思い出せる。たった今の記憶みたいに、鮮明に鮮烈に鮮やかに蘇る。 ふたりで思い出した記憶は、あなたの朝もやけを押しのけて光をくれるから。そうして得た光はあなたを暖めてくれる。あなたと私に生命を蘇らせてくれる。記憶と同じように、鮮明に鮮烈に鮮やかに。 私は目を開けるよ。 いつかあなたが私の元へ帰ってきて、そして悲しくなった日のために。 ぴい、ぴい、と私の心拍を響かせる心電図と酸素マスク、消毒液と腕に繋がれた点滴のあるこの部屋で、私は目を開けるよ。 おそらくもういない、あなたのために。 了 実はGARNET CROWの「Timeless Sleep」のオマージュだったりしますが、いったいどれだけの方が気づくんでしょう。 一応触れておきますが、GARNET CROWおよび関係者とは無関係のファンアートですので。一応。 |
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